「ペトロ、死人を生き返らせる」
加藤 智恵牧師 使徒言行録 9章36~43節
リダはヤッファの町の近くにありました。エルサレムから一日の道のりでした。リダの町でペトロは、中風で8年間も床に就いていたアイネアに会いました。ペトロは彼に「アイネア、イエス・キリストが癒して下さる。起きなさい。自分で床を整えなさい」と言うと、すぐに起き上がりました。ここには癒して下さるのは、イエス・キリストだというペトロの信仰が見られます。いつでも奇跡の主役はイエス・キリストです。病が癒されたアイネアを見て、周囲の町に住んでいる人々は、皆主に立ち返りました。大勢の人がこの奇跡を見て、クリスチャンになったのです。
ヤッファの町は地中海に面した町で、旧約時代から栄え、新約時代にも港町として栄えていました。ヤッファにいた弟子たちは、リダの町のペトロの許に人を遣わして、「急いで私たちの許に来て下さい」と頼みました。ヤッファにはアラマイ語でタビタという女性で、ギリシャ語でドルカスという名前の女性がいました。かもしかという意味で、目が綺麗なしなやかな動作をしていました。この時代には現代と違って、上着や下着は大切な物でした。「あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない」(ルカ6:29)とあります。ここにはクリスチャンとしての生きる規範が書いてあります。当時、上着を奪い取る者、下着を奪い取る者がいるほど、一般の人たちはこれらの物に不足していたのです。ですからドルカスという婦人のクリスチャンは、身寄りの無いやもめに下着や上着を作ってあげたり、貧しい人に施しをすることも忘れませんでした。ところがその頃、彼女は病気になって死にました。
ペトロはヤッファにいた弟子たちの要請に従って、ヤッファの町に出かけました。人々はペトロが到着すると、遺体が安置してある階上の部屋に案内しました。やもめたちは皆ペトロの傍にやって来て、涙を流しながら生前ドルカスが作ってくれた数々の下着や上着を見せました。やもめたちはドルカスの作ってくれた下着や上着によって、どれ程慰められ喜びを与えられたことでしょう。ドルカスは人々にとって、大切な人であり、彼女が亡くなったことは自分の体の一部を失ったような悲しみだったのです。ペトロは人々を部屋の外に出しました。そして跪いて主イエス・キリストに祈ってから、遺体に向かって「タビタ、起きなさい」と命じました。するとタビタは目を開き、ペトロを見て起き上がりました。これはリダで「アイネア、イエス・キリストがあなたを癒して下さるのです。立ち上がりなさい」と言った言葉と同じで、ペトロはイエス・キリストによる信仰を言い表わしています。
ペトロ自身の力ではなく、主イエスによる信仰がタビタを生き返らせ、アイネアを立ち上がらせたのです。そして弟子たちとやもめたちを呼び、生き返ったタビタを見せました。驚くべきしるしをペトロは行い、このことはヤッファの町に広がりました。そして多くの人が主を信じて、クリスチャンになりました。福音を信じる者が次々と起こされていったのです。
ペトロはしばらく皮なめし職人のシモンという人の家に滞在しました。当時、「皮なめし」という職業は動物の死体に触れるので、ユダヤ人の間では汚れた職業とされていました。しかし、神はペトロに差別や偏見を越えた福音の真理を説き明かしていくのです。イエス・キリストにあっては、ユダヤ人と異邦人の区別はありません。また女も奴隷も同様に区別はありません。キリストは全ての隔ての壁を打ち壊されたのです。